ボランティア物語

NYCマラソンに見るボランティアの意義とは?


ベルナールさんと伊藤さん
NYCマラソンのボランティアに長年携わるジョセリン・ベルナールさん(左)と伊藤恒之さん(右)
【写真/中村あきつ】
だれもが参加できるNYCマラソン
主役はランナーだけじゃない!


 ボランティアと聞くと、献身的で人のためにやっている、とてもエライ人のようなイメージがあるが、ニューヨークシティー(NYC)マラソンに限っては、そんなことはない。

 参加ランナー3万人に対して、ボランティアの数は1万2000人。といっても、これは主催者側が必要としている数で、家の前でオレンジを配っている人や、沿道でキャンディーを渡してくれる人、ブラスバンド部で『ロッキーのテーマ』を演奏している高校生など、実際にはもっと多くの人が関係しているので、正確な人数は分からない。

 NYCマラソンは、だれもが簡単に参加ができる、市をあげての大きなイベントなのだ。

 マラソンに欠かせないものとして、沿道で配られる水がある。NYCマラソンには、合計26の給水ステーションがあり、その各ステーションには、100人もの人が働いている。

 今回話を伺ったのは、フィリピン人のジョセリン・ベルナールさんと伊藤恒之さん。ベルナールさんは、かれこれ10年近くも、1番街の77丁目と78丁目にあるステーションでボランティアをし、伊藤さんも3年ほど同じ場所でボランティアをやったという。

 ボランティアは毎年、マラソン当日の朝8時半に現地に集合。そして、20台の机を10台ずつ道路の両わきに並べる。次に軽トラックで運ばれてきた水をホースで大きなポリバケツに入れる。その間に紙コップをすき間なくテーブルの上に並べて、水を入れて準備終了。あとはランナーが到着するのを待つだけ。テーブルの前に出て、ひたすら待ち、その間にバケツに水をくむ人、コップに水をくむ人、ランナーに水を渡す人という、3人1組のチームワークを確認する。

 ボランティアの人もランナー同様に毎年Tシャツがもらえる。そして風よけ、水よけ用のポンチョ。実はこれが楽しみで毎年参加する人も少なくない。

 中には寒い年もある。そんな時はとにかく着込む。また、だれかが一度、大きなスピーカーを車で運んできて、音楽をずっと流し、踊りながらランナーを待っていたこともあるという。

 11時をすぎたあたりから、ぽつぽつと最初のランナーが見え始める。ボランティアは、だれもが自分が手にした水を飲んでほしいと思うので、自然とランナーへと近づいてしまい、ランナーのコースをふさいでしまう。そんな人たちをコントロールしたり、ピーク時に水が切れないように誘導するのは、そのステーションのキャプテンの大きな仕事だ。

「ピークの時間は、トップランナーが去ってからの午後1時半から2時半くらい。めまぐるしくって何がなんだか分からなくなる。バケツに水をくみ終わったと思ったら、次のランナーが来て。コップに水をくむのも1秒に1個のペースじゃないと、間に合わない。まるで嵐のようですよ。でもすごい充実感がある。おなかがすいても、その時間がピークだから食べてる暇なんかないんです。そろそろ来るなーて思ったら、先におにぎりなんかをほおばっておくけれどね」
 と伊藤さんは説明する。


    

2002年12月12日