<戦いの朝>

 前日は一滴のアルコールもとらず、午後9時に寝る。
 大会当日は6時の起床。目覚まし時計の音とともに
 目を覚ます。辺りはまだ暗いが、昨日の天気予報で
 は、晴れるとのこと。
 今日は、ランナーズクラブから俺1人の参加。1人ぼ
 っちの参戦だがそんなことはかまわない。なぜなら
 マラソン自体、”孤独なもの”であるからだ。
 朝食をすませ、トイレもすませ、身支度をし、今日も絶
 好調であることを確認する。愛犬クマゴローは冷やや
 かな目で俺を見送ってくれた。

 <会場へ到着>

 日曜日の朝ということもあり、会場への道は全く混み合
 っていない。20分程度で会場へ到着。スタッフの誘導で
 駐車場から、井原運動公園までは徒歩で。辺りはこれに
 参加する人が沢山歩いて運動公園へ向かっている。
 陸上競技場に入り受付を済ます。スタッフの方が親切丁
 寧に教えてくれる。5キロ男子30代の場所へ案内され、
 その中の男の子にハガキを渡す。引き替えに参加賞の
 Tシャツ・RCチップ・選手名簿を手渡してくれた。
 「頑張ってください」彼は笑顔でそう言ってくれた。なかなか
 素敵な笑顔だった。僕も笑顔で返す。「はい」

 <開会式>

 受付を終了し暫くすると、開会式の放送が流れる。大会委
員長から、市長といった通り一遍の挨拶。挨拶にももっと個
性を出せば良いと思うのは俺だけだろうか・・・。
堅苦しい挨拶も終わり、招待選手の紹介が始まる。
アレネ・エメレ(エチオピア出身で19歳。世界ランキング16位)
という人だが知らない。長身で特に足が長い。俺の足も短い方
ではないが、彼には僅かな差で負けたように思う。彼と並んで歩
くのはよそう。もっともそんな機会はないと思うが。

 <アップ・スタート>

 形式ばった開会式も終わり、選手は各自アップを開始する。
勿論俺も、エメレ選手も。エメレ選手の走りに皆熱い視線を送る。
ただ走るという動作だが、バネといい大きなストライドといい世界
レベルの走りを目の当たりにする。スゴイ!お調子者が彼の後を
全速力で走っているが全く相手にしていない。俺も入念にストレッ
チを行い、軽く走る。数分で体が温まり心拍数と一緒に自身のボ
ルテージもあがってくる。

まずはハーフがスタートを切る。エメレ選手が引っ張る。速くて、
しなやかで、ダイナミックなフォームだ。
続いて男子5キロ。場内放送で、スタート地点への集合を促す。
アップで汗をかいたTシャツを脱ぎ勝負服に着替える。俺の真横で
お姉チャマもジャージを脱ぎランパン姿になる。鍛えぬかれた足が
とてもきれいで、違うボルテージも急上昇してきた。イカンイカン。
思考を切り替え、お姉チャマの美脚にサヨナラを告げ、いざ、フィ
ールドへ。
ざっと400人近いランナーが5キロ一般でエントリーしている。俺は
できるだけ前へ前へと位置取り合戦にしのぎをけずる。
「スタート1分前」何とも言えないこの緊張感がたならなく好きだ。
「10秒前」・・・「パーン」 二十数分間の孤独な戦いが今始まった。

<序盤、中盤、ラスト>

スタートしてトラックを一周し公道へ。井原運動公園は高台にあり
一般道路へ合流するまで下りが続く。えいちゃんが言った通り、帰
りはこの坂が俺の前にたちはばかるのだろう。先頭集団は学生の
ようだ。ヤツらはしゃれにならんくらい速いしタフ。俺はオーバーペ
ースにならぬよう細心の注意を払う。1人に抜かれていき、また1人
俺を追い越していく。でもまだまだ、勝負はこれからと自分に言い聞
かす。
2キロ地点くらいだろうか、池田ファミリーの姿を目にする。沿道でどう
やら僕を応援してくれているようだ。頑張らなくては。折り返しに達し
時計を見る。12分少々。ペースが遅すぎたことに気付く。ここから巻き
返し開始!ペースアップし、往路で抜かれた借りを返す。まずは目の
前の黄色のランシャツを着たオッサン。難なく交わす。次は茶髪のア
ンチャン。これも普段のニコチンのせいかバテバテになっている。そん
なワケで次から次ぎへと追い抜いていく。足も呼吸も不安はない。
青い空、白い雲、沿道の声援、快調に走る僕。こんな時間がいつまで
も続けばいいと思った。
「世の中そんなに甘くない」耳にタコができるほど聞いた言葉だが、ラス
ト700メートルくらいで呼吸が苦しくなる。更に最後はのぼり。
何とかのぼりの手前にくる。時計を見る。18分台。前回の記録更新!
と自分をふるいたたす。が、思うほどスピードが出ない。呼吸が苦しい。
歩きたいけど歩けない。こんなもので歩いていたら、この先10キロ、ハ
ーフなど夢物語。帝釈峡での敗北を思い出し、前傾姿勢で足を前に出す。
しかし、スピードは出ない。時計を見る余裕もない。沿道の声援が遠い。
最後ののぼりが何分かかったのか分からない。陸上競技場に入り、トラッ
クを半周。ゴールゲートをくぐると、RCチップに反応したセンサの電子音。
タイムは22分31秒。記録更新ならず。俺の二十数分の孤独な戦いは終
わった。タイムも平凡、走りもイマイチだったが、30代男子の中では20位
と大健闘。もっとも、30代男子が何人いたかは伏せておくが。

帰ってビールと焼き肉を食べ失ったカロリーを補充。さあ、次はいよいよ
10キロだ。明日からまたトレーニングだ。
                                      
                                      
 
    つづく

2001年12月11日