「むらちゃん、浴衣もねえなあ。」
5時半。
亀屋旅館に入る、ちいさな玄関には靴箱もない。
「どうぞ、お部屋にご案内します。」と、くずれた京都弁を聞きながら階段を上る。
ぎっしぎっし。
「お部屋は三階です。」階段は狭く手すりをもちながら上がる。ここもメリメリきしぎし。
とおされた部屋は「二人部屋」に間違いはなかった。
だが左右の部屋とはふすま戸いちまい。
部屋の広さ畳三畳。
そこにテレビとちいさなテーブルと灯油ストーブと布団二人ぶんがおいてあった。
「むらちゃん、隣の音はまる聞こえだなぁ。」
ごそごそするえいちゃん。
「むらちゃん、浴衣もないみたいだなぁ。」
「今日はマラソンで客いますけど、普段どうなんですかね?」
むらちゃんはそういう心配。
2003年11月24日