手紙を出す手続きも同様である。士官はその人格が認められて、自主的判断で文通する ことができる。それに反して、下士官兵は書いた手紙を開封のまま分隊士に提出し、検閲 を受けなければならない。分隊士は文面を精読して、機密保全に問題はないか、思想身上 に疑問はないかなど確かめてからでないと検閲印を捺さない。 また当時は、機密保全が至上命令でった。そのため、軍人の出す手紙であっても検閲印 のないものは、防諜上の目的から、憲兵隊や特高警察による開封検査が実施されていると の噂が流されていた。事実かどうかは知らないが、これで検閲を受けずに手紙を出すのを 牽制していたのであろう。 そのため、われわれ下士官兵が手紙など書く場合は、分隊士から注意を受けそうなこと は初めから書かない。上司に読まれることを意識しながら書くのだから、本心など書ける ものではない。だから、「元気に勤務しておりますから、ご安心ください」などと、通り 一遍の簡単な文面のハガキを出すのが精一杯であった。
2003年3月22日