飛行豫科練習生心得綱領
第一 飛行豫科練習生ハ将来航空機搭乗員トシテ重要ナル任務ニ服シ
航
空部隊戦闘力ノ根幹タルベキモノナリ 之ガ為メ常ニ聖旨ヲ奉戴シ
軍規ヲ重ンジ 鞏固ナル軍人精神ヲ涵養體得スルト共ニ強靱ナル體
力ヲ錬成シ智能ノ啓發ニ努メザルベカラズ
第二 軍紀ハ皇軍ノ尊厳ナル紀律ニシテ軍紀至嚴ナル軍隊ハ衆心一致克
ク使命遂行ニ邁進シ得ルモノトス 故ニ練習生ハ軍紀ノ嚴守ヲ以テ
自己ノ天性タラシムル覺悟アルヲ要ス
第三 軍人精神トハ至誠聖旨ヲ奉戴スルノ純真不動ノ信念ヲ基礎トシ軍人
ノ本分遂行ニ邁進シ進ンデ難ニ赴キ水火ヲ辭セザルノ熱烈ナル精
神ヲ謂フ 練習生ハ切磋琢磨シ之ガ陶冶鍛錬ニ努ムルヲ要ス
第四 旺盛ナル攻撃精神ト犠牲的精神ハ帝国海軍ノ傳統ナリ 故ニ練習生
ハ常ニ積極進取之ガ涵養錬磨ニ努ムルヲ要ス
第五 勇猛果敢ナル戦闘力ヲ發揮持續センガ為ニハ旺盛ナル氣力ト共ニ
強靱ナル體力ヲ有セザルベカラズ 故ニ練習生ハ攝生ヲ重ンジ身體
ヲ鍛錬シ以テ之ガ錬成ニ努ムルヲ要ス
第六 航空術ノ進歩發達ハ躍進的ニシテ機能亦精妙ナリ 故ニ練習生ハ
鋭意學術技能ヲ研鑽修得シ以テ智能ノ啓發ニ努メ將來ノ職責遂行ノ
基礎ヲ確立セザルベカラズ
第七 軍隊生活ハ嚴格ナル修練ノ道場タルト共ニ休養英氣ヲ養フ可キ家ナ
リ 練習生ハ各其ノ本分ニ邁進スルト共ニ 和衷協同ノ實ヲ擧グル
コトニ努ムルヲ要ス
《練習生に示された土浦海軍航空隊の教育方針》
二部教通達甲第二〇号
練習生ハ本表ヲ以テ座右之銘トスベシ
| 軍人勅諭 | 字 義 | 訓諭項目 | 実践項目例 |
|---|---|---|---|
| 忠節 | 君ニ事ヘテ誠 實ヲ盡シ命ヲ 捨テヽ職分ヲ 果ス |
一.盡忠報国 二.兵力ノ消長ハ國運 ノ盛衰ナリ 三.義ハ山嶽ヨリモ 重ク死ハ鴻毛ヨ リモ輕シ |
一.大御心ヲ體シ日常ノ課業 勤務ニ全身全靈ヲ捧グル コト 二.私事ヲ以テ公務ヲ辭セザ ルコト 三.犠牲的精神、旺盛ナル攻 撃精神ノ涵養 四.人ノ嫌ガルコトハ自ラ進 ンデヤルコト積極進取 五.日本一ノ豫科練習生トナ ルコト |
| 禮儀 | 他人ヲ尊敬シ 自己ノ行為ヲ 慎ム |
一.絶對服従 ー→朕カ命令 二.秩序維持 三.敬禮ノ勵行 四.上ヲ敬ヒ下ヲ恵 ム→人ノ和 |
一.上官カラ達セラレタコト 又ハ練習生心得等決メラ レタコトハ絶對ニ嚴守ス ルコト 二.敬禮ノ勵行ーー眞ニ愛敬 ノ念ヲ以テ行フコト 三.服装容儀ヲ整ヘルコト 四.上官ヲ批判セズ |
| 武勇 | 正義ノ為ニハ 如何ナル危險 ヲモ恐レズシ テ其ノ本分ヲ盡ス |
一.大勇ト小勇 二.義理ヲ辨ヘ膽力 ヲ練ルコト 三.小敵タリトモ侮 ラズ大敵タリト モ懼レズ 四.温和第一 |
一.大言壮語ヲ止メ正シイコ トハ着々實行シテ行クコ ト 二.武技體技ヲ錬リ膽ヲ磨ク コト(業精シカラザレバ 膽大ナラズ) 三.學術技藝ニ長ズルコト |
| 信義 | 一旦發シタル 言葉ヲ間違ナ ク實行シ己ノ 本分ヲ盡ス |
一.信義ハ團體生活 ニ必要ナリ→一 心同體 二.順逆理非熟慮 三.私情ノ信義ヲ戒 シム |
一.嘘ヲ謂ハヌコト 二.表裏ナキ人物タレ 三.約束ヲ實行スルコト 四.悪イト氣ガツイタラ直ニ 止メルコト 五.責任觀念ヲ旺盛ナラシム ルコト |
| 質素 | 事物ガ簡單デ 價値ガ内ニ充 實シテ居ルコ ト |
一.質實剛健 二.困苦缺乏ニ堪ユ ル精神 |
一.物資節約 二.兵器愛護、官品尊重 三.弱音ヲ吐カズ 四.努メテ薄衣ヲナスコト 五.貯金ノ勵行 六.金錢貴重品ハ貸借ヲナサ ズ 七.常ニ清潔ナモノヲ身ニツ ケルコト 八.派手ヲ好ム氣分、衒フ氣 持ヲ捨テルコト |
誠 心 誠心誠意實踐スルコト
昭和十八年十月二十八日
第二部教育主任
我が子を送り出した練習生の家庭に、まもなく分隊長から手紙が届きました。
海軍は青少年育成に果たす家庭の役割を
高く評価していたようで、PRが行き届いています。
我々も家庭通信の時間には、よく手紙を書きました。手紙は遠く離れた家族との絆を強め、つらい訓練にも堪えるエネルギー源となりました。
(公用信は、前田宇宙司君が保管していました)
拝啓 戦時下貴堂益々御清祥慶賀至極に存候 扨今般 君には芽出
度第十三期甲種飛行豫科練習生に採用せられ十月一日附を以て海軍二等飛行兵を
命ぜられ光輝ある帝国海軍航空部隊の一員として皇国の將來を双肩に擔はるゝに
到りし事本人は勿論御家族の御満足はもとより邦家の爲眞に慶賀至極に存じ候
扨て入隊の上は教育主任、分隊長始め各教官、分隊士、教員等にて最善の努力を
拂ひ教育指導に當るべく候間何卒御安心被下度候 不肖小官分隊長を拝命し教育
を擔任する事と相成候に就ては此の際御挨拶旁々當隊に於ける教育状況並に生活
状態に關し御説明申上げ併て御家庭に對する希望事項等申添度左記の通りに候
一、編 成
第十三期甲種飛行豫科練習生を以て第二練習部(教育主任海軍少佐宮崎重憲)
を編成し 教育主任の下に数個の分隊を組成す、一箇分隊は数箇班より成り分隊
長は恰も一家の父の如く、分隊員身上一切を擔當し分隊士は恰も母の如く、班
長(下士官)は兄の如く練習生の身の廻り一切を世話するものに候
二、教 育
海軍の航空機搭乗員は民間の飛行士と異なり複雑困難なる海上作戦に活躍する重
大なる任務を有し從つて基礎教育を完成し先づ立派なる海軍々人を作り上げ然
る後に搭乗員たるの訓練を行ふものにして當隊に於ける教育は悉く海軍々人た
るの教育にして飛行機の搭乗訓練は當隊卒業後に於て行はるべきものに候
三,生 活
規律節制ある軍隊生活なるを以て當初多少は窮屈を感ずることあるも慣るれば
却つて愉快なるものに候間假令初期に於て苦痛を訴ふる如き場合あるも御家庭
に於ては同情的の態度を示さるゝよりも寧ろ積極的に鼓舞激勵相成度其の方が
結局練習生として早く生活に慣れしめ成績も向上する所以に候
課業は午前四時間、午後二時間にして、午後一時間の體育を実施し心身の健全
なる發達を圖り尚夜二時間の自習時間有之候、起床夏季(四月ー九月)は五時
十五分、冬季(十月ー三月)は六時、就寝は夏季冬季共九時十五分に候、又日
曜日は休業にして入隊一ヶ月後よりは自由外出も許可致可候
四,食 事
食事は、栄養に考慮せられあり其の他夕食後より酒保時間には菓子、うどん、
汁粉等購入し得て決して不自由之無從て飲食物の隊内持込は厳禁致居り候間御
家庭よりの送付は堅くお斷り申上候 從來我子可愛さに溺れ蔭に食物等を與へ
らるゝ向も有之様聞及び候も結局本人をして惡習慣を惹き起さしめ教育上大な
る支障を及ぼすものに候從來當隊の教育に協力されざる家庭の子弟にして立派
な飛行兵となりし例無之此點充分御含み置き被下度候
五,衛 生
衛生並に治療に關しては充分なる設備有之薬品等の御送附は不必要に候從來家
庭薬を以て姑息なる素人治療をなし結局病状を悪化せしめたる例有之病気等の
際は常に軍醫官の指示を仰ぐ様致させ居候間御安心相成度
六,給 与
十月一日より二等飛行兵として月額六圓餘、其の後一等飛行兵(十一圓餘)上
等飛行兵(十三圓餘)飛行兵長(十六圓餘)と階級に應じ支給せられ必需品の
購入等には支障無之御家庭よりの送金は堅く御斷り申上げ候 巳むを得ず送金
される場合は直接本人に渡さるゝ事なく分隊長宛書留にて「誰某に渡され度」
として御送附相成度、子弟が父兄宛分隊長や班長に内緒で送金を依頼する如き
場合從來の例に依れば悉く不良行為に使用せんためのものに候間之に應ぜざる
如く御留意相成度
七,金 綫
入隊時の所持金は大部分郵便貯金として保管致可本人外出時一圓以内持参せし
むる外は現金所持を厳禁致居候
但し入隊時の身廻品及學用品代として金約二拾圓位要する豫定に候
八,面 會
課業時間外に許可致すべく候、御來隊の節は分隊長、分隊士、班長は可成御面
會被下度
尚十月中は特別教育の都合上支障有之に付父兄の面會は可成御差控被下度
九,音 信
親兄弟よりの激勵の御手紙は本人を鼓舞する事大なるもの有之尚御手紙は唯一
の慰安に候間可成多数音信を送られ度
一〇、歸 省
大戦下と雖も飛行豫科練習生は特に休暇も許可せらるゝ
事に相成居り候 尚父
母重病又は不幸の際等本人の歸省を願はるゝ
場合は先ず市町村長を經て當隊司
令宛電報(官報)にて歸省許可を願出る事、同時に願書を作り醫師の診斷書を
添へたる上市町村長の證明書を附し司令宛提出され度(書式別紙)
一一、其 の 他
(一) 贈呈の意味を以て金品等分隊長、分隊士、班長宛送附せらるゝ
事絶對に無
之様爲念申添候
(二)入隊の際着用せし衣服類は本人より御發送申上可
(三)學術上の参考書類御送附無用に候
(四)入隊後は本人の身上に關し御不審の點あらば直に分隊長に連絡相成度
本人指導上参考となるべき事項等御遠慮なく御申越相成度
(五)精神教育上裨益する處甚大なるを以て可成御両親様(若くは之に代るべき
方)の御冩眞本人宛御送附あり度
之を要するに入隊後は關係者一同責任を以て指導致し天晴れ軍人たらしむる所
存に候間御家庭に於かせられても是非とも吾々に御協力被下度願上候
追 而
歸省手續等は能く熟讀願度往々にして手續き誤り歸省時刻の遅延は勿論更に
照会を要する等其の他お互に迷惑を感ずる事有之候間本紙別紙共保管の上必
要の都度御覧相成度
昭和十八年十月五日
土浦海軍航空隊第四十分隊長
前田 菊次郎 殿
(別紙)
昭和 年 月 日
縣(府) 郡(市) 村(町) 大字 番地
實父(實母、兄或ハ親族) 何 某〈印〉
土浦海軍航空隊司令殿
看護歸省ノ件出願
何分隊 何班 何 某
右者實父(母)別紙診斷書ノ通リ病気ニ罹リ居候處昨今危篤ニ陥リ候ニ就テハ看
護致サセ度ニ付御許可相成度此段御願候也
前記ノ趣相違無之コトヲ證明ス(市町村長ノ奥書)
昭和 年 月 日
縣 郡 市(町村)長 何 某 〈印〉
(注意)
一,家事整理歸省願書ハ右ニ準ズ
二,看護歸省ノ場合ハ醫師ノ診斷書ヲ必要トス
三,急ヲ要スル場合ハ市町村長ヨリ先ヅ航空隊司令宛ニ電報(官報)ニ依リ願出デ然ル後
願書ヲ送クラルゝ モ差支ヘナシ
電文例(電報ヲ打ツトキ)
發信人 市町村長
宛 土浦海軍航空隊司令
電 文 ○○ブ ンタイヤマカワタロウ チチヨサク
キトクヒマタノム ○○ソンチョウ
本 文 (○○分隊山川太郎父與作危篤暇頼ム○○村長)
甲種飛行予科練習生教育時数並ニ点数表(一年六ヶ月教程)
13期の場合は8ヶ月に短縮されました。
【林千里氏の資料より】
| 科 目 | 1年時数 | 1年点数 | 2年時数 | 2年点数 | 全時数 | 全点数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 訓育・人物・精神教育・勅語 | - | 55 | - | 110 | - | 165 |
| 訓育・体育 | - | 30 | - | 60 | - | 90 |
| 艦務実習ー練習艦 | 1回 | 15 | - | - | - | . |
| 艦務実習ー艦隊 | - | - | 1回 | 45 | - | 60 |
| 訓育及び実習計 | - | 100 | - | 215 | - | 315 |
| 軍事学 運用術 | 60 | 30 | 36 | 20 | 96 | 50 |
| 〃 航海術 | 60 | 30 | 100 | 40 | 160 | 70 |
| 〃 砲術 | 70 | 25 | 76 | 35 | 146 | 60 |
| 〃 水雷術 | - | - | 31 | 25 | 31 | 25 |
| 〃 通信術・操縦 | 150 | 30 | 155 | 45 | 305 | 75 |
| 〃 通信術・偵察-通信 | 150 | 30 | 455 | 120 | 605 | 150 |
| 〃 通信術・偵察-攻撃 | 150 | 30 | 175 | 50 | 325 | 80 |
| 〃 航空術・操縦 | 18 | 7 | 432 | 118 | 450 | 125 |
| 〃 航空術・偵察-通信 | 18 | 7 | 132 | 43 | 150 | 50 |
| 〃 航空術・偵察-攻撃 | 18 | 7 | 412 | 113 | 430 | 120 |
| 〃 機関術 | - | - | 20 | 15 | 20 | 15 |
| 〃 兵術・軍制 | 20 | 20 | 20 | 15 | 40 | 35 |
| 〃 雑科 | 5 | 5 | 15 | 5 | 20 | 10 |
| 軍事学小計(操・通・攻各) | 383 | 147 | 885 | 318 | 1268 | 465 |
| 普通学 数学 | 55 | 25 | 50 | 25 | 105 | 50 |
| 〃 理化学-物理 | 30 | 20 | 72 | 30 | 102 | 50 |
| 〃 理化学-化学 | 15 | 10 | 40 | 30 | 55 | 40 |
| 〃 地歴-歴史 | - | - | 30 | 25 | 30 | 25 |
| 〃 地歴-地理 | - | - | 20 | 20 | 20 | 20 |
| 〃 国語-講読 | 10 | 15 | - | - | 10 | 15 |
| 〃 国語-作文 | 20 | 20 | - | - | 20 | 20 |
| 普通学小計 | 130 | 90 | 212 | 130 | 342 | 220 |
| 学術教育計 | 513 | 237 | 1097 | 448 | 1610 | 685 |
| 総 計 | - | 337 | - | 663 | - | 1000 |
2003年3月21日